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グローバルなネットワークで「知識と経験」の橋渡しを

開設から1年の東京開発ラーニングセンター(TDLC)

アセアンと世界銀行主催の会議で、カンボジア、ラオス、インドネシア、フィリピンの地域開発担当者が、各自の取り組みについて報告し、意見交換―――。

アジアの開発を研究し、現場から学ぼうとする東京の学生団体が、ハノイの学生と交流し、夏のベトナムキャンプについて打ち合わせ―――。

東京・内幸町の世界銀行東京開発ラーニングセンター(Tokyo Development Learning Center、略称TDLC)では、日常的にこんな風景が見られる。4、5カ国の参加者がそろうことも珍しくないが、センターに直接姿を現すのはそのごく一部にすぎない。大半はビデオ会議で結ばれ、会議室のスクリーンを通して対話が続く。パワーポイントを使ったプレゼンテーションをリアルタイムで見ていると、何千キロも離れた話し手との距離を忘れてしまいがちだ。

  • 広く「経済開発と貧困の削減」を目標に活動する開発関係者のコミュニティーを対象に、ビデオ会議を通して経験と知識の交流を効率よく行えるよう支援する。
  • 国内外にある研修・教育材料をもとに、遠隔教育用のプログラムをつくり、途上国側の利用者に届ける手助けをする。
  • 必要に応じて世界銀行が培ってきた人的、知的資源を組み入れ、TDLCならではの付加価値によって開発の効果を高める。

接続相手をスクリーンに「迎え」、議論が進むビデオ会議。

2004年6月に開設されたTDLCは、そんな大役を担って船出した。世界銀行のイニシアチブでできたグローバル・デベロップメント・ラーニング・ネットワーク(Global Development Learning Network, 略称GDLN)の一部で、日本政府が世銀に対し、2004年度より5年間で2500万ドルを拠出する予定だ。日本の経験・知識を、アジアをはじめ世界に発信する好機となり、日本政府が寄せる期待は大きい。日本のODAの柱となる国際協力銀行(JBIC)と国際協力機構(JICA)も、重要な協力者だ。

地球を網羅する接続能力

GDLNとは2000年6月に展開が始まった開発に関するネットワークだ。情報通信技術や遠隔教育の手法を駆使し、開発に携わるものが国境を越えて知識や経験を共有することで、開発の能力を高めるのがねらいだ。活動の舞台となるGDLNセンターは2005年8月現在、77ヶ所に達し、世銀や現地機関の協力を得ながら独自に運営されている。タイではバンコクのチュラロンコン大学に、オーストラリアではキャンベラのオーストラリア国立大学に、と現地の大学や研究機関に設けられている例も多い。

日比谷公園を見下ろすビルで、世界銀行東京事務所と同じフロアにあるTDLCは、世界中のGDLNの中で最も設備が充実したセンターだ。スタッフは世銀職員16人。ビデオ会議用のスタジオは小型テレビ局並みで、様々な角度から撮影ができる13台のビデオカメラや、講師の背景に映像を合成できるクロマキースクリーンを備えている。スタジオを隣接の会議室とつなげば最高120人まで収容でき、同時通訳ブースも2つある。

多国籍企業がニューヨークとロンドンの支社間でビデオ会議を行った、と聞いてもあまり驚きはないかもしれない。だが、GDLNのネットワークはスケールがまるで違う。世銀が90年代、先駆者として得たグローバルなビデオ会議のノウハウを背景に、専用回線(光ファイバー)、衛星通信、またはISDN、IPを使い、地球をほぼ網羅する形で多様な組み合わせの接続相手を選ぶことができる。

日本国内では、大学や地方自治体と結ぶケースが増えているが、2004年11月、GDLNとJICAが協定を結び、接続の範囲はさらに広がった。JICAは、国際的な情報格差を軽減するための技術協力事業として、独自のネットワークであるJICA-Netを持ち、主にJICAの事業を補完するために使っている。これが正式にGDLNと提携することで、84カ国119市に及ぶ世界最大の開発ネットワークが実現した。

稼働率6割達成

開設から1年を迎え、TDLCの稼働率は6ヶ月平均で、上半期の20%から、下半期は60%まで伸び、すでに世界で最も繁忙なセンターのひとつになっている。2004年6月から2005年5月までの間に、TDLCが接続したGDLNセンター・世銀事務所のうち、最も回数が多かったのは、1位がスリランカで57回、2位がベトナムで50回、3位がフィリピンで48回、以下ワシントン、オーストラリア、インドネシア、パプアニューギニア、東チモール、タイ、モンゴル、インド、中国と続く。世銀以外の施設との接続も、同じ期間で見ると、毎月の接続回数のの20%から40%に達している。

利用者は開発援助機関、国連機関、地域機構、政府・地方自治体、大学、研究機関、NPOや各種協会、財団、民間企業と、多岐にわたる。2005年5月までに70団体が具体的に利用を考え、そのうち33団体がすでにGDLNを利用した活動を体験している。利用の目的は開発援助機関の業務、教育・研修プログラムの実施、会議などのコミュニケーション事業、同じ目的のもとで活動するグループのネットワークづくりと、幅広い。

例えば東京に事務局をおく国際機関、アジア生産性機構(APO)の場合、20カ国・地域にわたるメンバーの各生産性本部との間で研修を行うため、TDLCを利用し始めた。2004年9月にバンコクで開いた「メディアと生産性に関する多国間スタディミッション」で初めてビデオ会議を使い、バンコクと東京を結んだ。2004年12月にはインドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムと日本をつなぎ、従来は現地研修として行っていた「総合的品質管理セミナー」を4日間の遠隔教育に転換して実施した。ビデオ会議による講義、演習のほか、セミナーの途中で参加者が実際にそれぞれの国で総合的品質管理についてフィールドトリップを行い、その結果について再びビデオ会議で分析、議論を行った。遠隔手法を取り入れた大きなメリットは、コストの削減、学習者数の大幅な拡大、ほかの教育手法を組み合わせることによる学習効果の向上だ(図1参照)。2005年度もこの方式でセミナーを実施する予定で、2006年度以降は長期事業計画の中にTDLC利用を組み入れることを検討している。


(図1)[APO総合的品質管理セミナー]
従来研修と遠隔研修のコスト・参加者数比較
実施方法 従来研修 遠隔研修
概要 参加者数 10-15カ国、20人 5カ国、80人
期間 5日 4日
(内1日は現地研修)
研修地 研修ホスト市 研修参加各国
平均コスト
(1人/1日)
$400 $127

インターネットやCD-ROMなど多様なメディアを組み合わせ、先進的な学習手法を開発した例もある。TDLC、国連資本開発基金(UNCDF)、アジア開発銀行研究所(ADBI)が、2005年2月から12週にわたり、共同で実施したマイクロフィナンスのトレーニングコースがそうだ。マイクロファイナンスは途上国側の関心が強いテーマで、UNCDFはすでにCD-ROMと教科書をセットにした教材を作っていた。これに加え、東京が中心となってアフガニスタン、モンゴル、フィリピン、スリランカ、東チモールとベトナムのGDLNセンターを接続し、ビデオ会議によって講師が「授業」を行うようにした。各国の受講者は従来の教材を使った自習にとどまらず、スクリーンを通して講師と質疑応答を行い、UNCDFのインストラクターからも随時電子メールで指導を受けた。「教室」と化したそれぞれのセンターでは、受講者同士が意見を交換することもできた。成績優秀者には、UNCDFによるトレーナー認定証が授与され、受講者の大きな励みとなったようだ。

カギにぎるパートナー開拓


ビデオ会議の接続状況をモニターするコントロールルーム。

TDLCの開所式に出席した当時の世銀総裁、ジェームズ・D・ウォルフェンソン氏は,「東京にふさわしい最新鋭のセンターができ、研修や情報交換の幅が大きく広がる。パートナーらの協力を得て、必ずや工夫に満ちた利用方法を開発することができるだろう」と述べている。TDLCに課された任務は、この「工夫に満ちた利用」を具体的に考え、需要と供給を探りながら、ノレッジ(knowledge)――専門的知識や経験――を仲介する、という新しいビジネスモデルをつくることだった。

ここでカギを握るのは、「パートナー」の掘り起こしだ。質の高いコンテンツ、つまり研修、調査、教育のプログラムや音声・視覚教材を持っている供給者を積極的に見出し、長期にわたるパートナーとして協力が得られなければ、持続的にノレッジを発信し、途上国の能力向上につなげる、というTDLCの使命を十分に果たすことはできない。

TDLCが求めているパートナーとは、①途上国の開発や貧困削減に貢献したいと考えている②コンテンツを持ち、遠隔教育プログラムの開発を行う意思がある③プログラム開発に財政的に、あるいは自らの労働力を提供してコミットする用意がある④TDLCが支援するパイロットプログラム期間の後、長期的ユーザーになる、とみられる相手だ。

これらの条件を満たす相手にはまず、実際にGDLNを通じた活動を体験し、評価してもらう。同じ分野で活動する機関や団体を紹介し、協力を頼むことも可能だ。次に、TDLCと共同で試行的なパイロット・プログラム・プランをつくり、お互いの活動や支援の内容を定める。続いて、TDLCのバックアップを受け、プランを実施する。この段階で、長期にわたるプログラムのコンテンツを開発し、実施する能力を身につけてもらう。その際、TDLCはプログラムのコーディネートやインストラクショナル・デザイン(教育技法)について助言し、専門家も派遣する。パイロットプログラム期間中のビデオ会議関連料金については、プログラムを軌道に乗せるために必用不可欠な初期費用の軽減を受けることができる。この3段階のプロセスを経て、相手がGDLNのネットワークの価値を認め、本業に組み込んでもらえればよい。

災害復興に生かす:京都大学大学院地球環境学堂

その好例が、TDLCのパートナーとしてGDLNの利点を生かし、災害復興支援に役立てようとしている京都大学大学院地球環境学堂だ。

まず、パイロットプログラムのスタートとして2004年8月、他の協力機関とともに、「環境・災害マネジメントに関する遠隔教育プログラム――持続可能な成長と人間の安全保障に向けて」と題するビデオ会議を開催した。TDLC、国連大学,京都大学学術情報メディアセンター、ベトナム、インドを結び、関係者に遠隔教育の手法を体験してもらった。

引き続き、2005年1月に神戸市で開かれた国連防災世界会議では、テーマ別会合「知識管理と教育:災害に強いコミュニティーの構築」に、UNESCO などとともに参加。TDLCは会場となったホテルにJICAと協力してビデオ会議を「持ちこみ」、神戸とベトナム、インドネシア、スリランカを中継して各地からツナミ被害の報告を受け、政策担当者と研究者の質疑応答が行われた。

プログラムの中心となる京都大学大学院地球環境学堂のラジブ・ショウ助教授は、2度のビデオ会議を経験し、「途上国の場合、会議に出席できる人が少なく,ビデオ会議は参加者を多く動員できるという意味でよかった」と評価する。一方で、「遠隔教育の基本的な問題は現場とのつながり。フィールドでの活動を含めたプログラムをつくらねばならない」とも語る。

2004年12月にインド洋を襲ったツナミでは、複数の国が被害を受け、GDLNの有効性に対する認識が広がった。ショー助教授は、状況把握と現地のニーズを探るため、2005年7月末に被害のとりわけ大きかったインドネシア・アチェで調査を行った。その結果、中長期的には、地域に密着した防災計画に関するトレーニングプログラムをつくる必要があることがわかったが、インドやスリランカでも計画作りは行われている。「GDLNを使って他国のノウハウに学び、現地の人と一緒に計画をつくることが大事だ。今後の災害復興の参考にするため、世銀の住宅建設プロジェクトの進行状況も、TDLCが中心になって記録すべきだ」と、プログラム作りを検討中だ。

京都大学大学院地球環境学堂の場合、TDLCのパートナーとして活動することで、世銀や国連機関との連携がしやすくなり、同じ目的を持つコミュニティーのネットワーク作りにも生かせる。また、GDLNにとっても、京都大学を通じて世界各地にパートナーとして頼れる専門家・機関の輪が広がっていく。

東アジア大洋州の要に

GDLNは東アジア大洋州、南アジア、ヨーロッパ・中央アジア、ラテンアメリカ・カリブ海、北アメリカ、アフリカ(サハラ以南)、中東・北アフリカの7グループに分かれ、共通の課題に取り組んでいる。

TDLCは14ヶ所のGDLNセンターを擁するGDLN東アジア大洋州協会のメンバーとして、この地域のネットワーク全体のレベルアップに努めている。東アジア大洋州は、社会、経済、文化、言語などの面で、世界で最も多様性に富む地域だが、これまでに10回、各センターのマネージャーや開発援助機関代表が集まる地域会議を開き、徐々に結束を強めてきた。2005年7月にハノイで開かれた会議では、6ヶ月以内に地域のビジネスプランをつくることが合意され、価格設定やサービス水準の統一などが協議された。

世界銀行東京開発ラーニングセンター(TDLC)
〒100-0011 東京都千代田区内幸町2-2-2
富国生命ビル10階
電話:(03)3597-1333
ファクス:(03)3597-9161

詳しくはTDLCのホームページ http://www.jointokyo.org をご覧下さい。

お問い合わせは E-mail: jointokyo@worldbank.org へお気軽にどうぞ。

将来展望:「持続的プログラム増やし、国内ネットワークの強化を」

福井龍(ふくい・りゅう)・TDLCパートナーシップ&プログラムマネージャーに聞く

TDLCが目標とするのは、他者が持つコンテンツを仲介する、というビジネスモデルだ。初めはそんなやり方が成立するのか、懐疑的な目で見られることもあった。そもそも日本では遠隔教育に対する理解が十分だとはいえない状況で、国内に蓄積されているコンテンツも日本人による日本人のためのものになりがちだ。「知識と経験」のやりとりをひとつの「市場」だと考えた場合、TDLCは仲介業を目指しつつ、コンテンツをつくる潜在的な供給者を探りだして支援し、うまく需要に結びつけていく、という、市場の開拓から始めなければならなかった。そんな努力を続けながらTDLCを根づかせ、供給者を増やし、長期的に利用してもらう必要がある。とてもアンビシャスだがエクサイティングな事業だ。

設立から1年を経て、潜在的な「市場」が十分にあることがわかった。それがセンターの稼働率やパートナーの数に反映されている。また、日本の開発関係者のコミュニティーにとって、距離が離れたアフリカ、中東、中央アジアと接続する需要も確認できた。日本のパートナーにとって、TDLCにはアジア以外の地域への「グローバル・ゲートウエイ」としての機能もある。

GDLNおよびTDLCの事業が、どれだけ開発コミュニティーの欠くべからざるツールとして定着するか。社会に根づかせるにはどうすればよいか。日本政府がコミットしている5年間の期間が終わった段階で、きちんと評価し、次のステップが提案できるようになっていなければならない。

ビデオ会議や遠隔教育の手法が、電話と同じぐらい当たり前に使われる技術になればよい、という考えがあり、社会はそこに近づいていくと思う。しかし、世界銀行の事業として見れば、それは話の半分でしかない。電話もビデオ会議もコミュニケーションの道具だが、重要なのは、なぜ世銀が仲介する必要があるのか、という問題だ。

その点、世界銀行にはグローバルな機関として様々なパートナーを動員する能力がある。ほとんどすべての途上国に、政府から民間の実務家までのネットワークがあり、これが付加価値の源となる。災害復興を例に考えると、GDLNを通して災害現場の地元団体、日本で復興経験を持つ専門家と、世銀の専門家を結びつけ、必要な情報提供ができる。それは遠隔手法でなければ考えられないような経験の共有だ。タイムリーな学習が必要となる場合は仲介がいっそう価値を持つようになる。

課題は多々ある。日本国内でいえば、コンテンツの供給者は数多いが、地理的に東京に限定すると難しい。地方からも有益なプログラムを発信してもらいやすくするため、国内のネットワークを大幅に強化したい。例えば、IPバージョン6による、確実で迅速な次期インターネットであるインターネット2の活用だ。TDLCが日本の高速学術情報ネットワークのSINETに専用回線で加わることで、大学・研究機関にとって利用しやすい環境をつくることができる。

ここまできて、センターの稼働率は急速に上がってきたが、今後は持続的な枠組みのあるプログラムをいかに増やし、コストを負担してもらえるか、も課題だ。また、数だけではなく、事業の質や効果をどうとらえるか、その目安となる新しい指標も検討しなければならない。(談)

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