2008年04月23日
モンゴルの看護師たちに触発されて
TDLC、北里大学が新しい母子保健トレーニングプログラムを開発
モンゴルを訪れた際、北里大学看護学部の吉野八重講師は、地元で使われていた母子保健の教科書を見て驚いた。「教科書といっても、ロシア語から翻訳した薄いものでした。教育をする人たちの武器がない、と感じました」。看護・助産教育も病院の設備も、旧ソ連から導入されたものが多かった。
インフラの不備、貧困、栄養不良など、途上国共通の問題に加え、モンゴル特有の事情も目にした。中高年層はロシア語はできても英語力がなく、パソコンの不足もあって新しい情報の入手が難しい状況だ。人口の40%は遊牧民で、病院へのアクセスは不十分だ。
しかし、2002年より日本看護協会の仕事でたびたびモンゴルを訪れ、現地の事情に詳しくなるにつれ、吉野講師は明るい兆しを感じ取った。モンゴルは識字率が高く、現地で会った看護師や助産師は熱心でやる気に満ちていた。遠隔方式で学習の機会をつくることはできないか、と世界銀行東京開発ラーニングセンター(TDLC)に問い合わせたのがきっかけで、TDLCと北里大学のコラボレーションが始まった。
国連のミレニアム開発目標として乳幼児死亡率や妊産婦の健康の改善がうたわれ、今年のサミット議長国である日本政府が国際保健協力を推進する決意を表明する中、母子保健教育へのニーズはますます高まっている。
吉野講師とTDLCのコーディネーター、矢橋ゆかはさっそく新しいプログラムの開発に乗り出した。看護・助産分野のリーダー育成を目的に、TDLCが遠隔教育の企画・運営ノウハウを、北里大学看護学部が日本の経験に基づく最新の知識を提供した。
ブラジルをはじめ海外で母子保健の専門家として活動した経験を持つ吉野講師は、ビデオ会議などの技術を導入した遠隔教育のメリットを強調する。「長期個人専門家やコンサルタントが海外で活動す場合、知的資源へのアクセスさえ難しいことがあり、本当に大変です」。遠隔方式であれば最新の情報がいつでも入手でき、時間もコストも抑えられる。「ハイテクを使ったより息の長い、継続性のある援助様式へのシフトですね」
プログラムは研修の規模と効果が最大限になるよう配慮した。TDLCとモンゴル国内5会場を世界銀行のビデオ会議ネットワーク(GDLN)を介して接続し、合わせて200人が受講する。終了後、受講者はそれぞれが勤務する病院、大学、診療所などで各自10人に学習内容を伝える。こうすることで母子保健の知識が2000人規模に広がっていく。
さらに、研修の効果に持続性を持たせるための工夫も行われている。モンゴル看護協会の協力のもと、受講者たちは講義で使った教材をもとに、地元のニーズにあうモンゴル語の新しい教科書を編修する。これと平行してモンゴル版母子手帳の作成を進め、現地の健康記録と統合したあらたな資源として、人々に活用されるよう支援していく。
吉野講師と矢橋コーディネーターはウランバートルで3月に開かれたモンゴル看護協会の全国大会にも出席し、 約800人の出席者を前にプログラムについてプレゼンテーションを行った。モンゴルの看護師たちの反響は予想以上で、遠隔教育にも期待を寄せていることがわかった。モンゴルで活動する国際機関も、今後の協力に関心を示した。大会期間中に行ったアンケートや聞き取り調査をもとに、モンゴルの看護・助産事情に合うよう講義の構成をさらに修正していく。
ウランバートル滞在中、矢橋コーディネーターはゲルに宿泊して病院を訪問するなど、現地の生活事情を垣間見ることができた。
「看護師さんたちは、日ごろ勉強して新しい知識を得る機会がない、と嘆いていました。薬や設備、教科書の不足も本当に深刻ですね」。今後はモンゴルにとどまらず、プログラムをさらに充実させて他の地域でも実施したい、と考えている。
プログラムの実施要領など詳細についてはモンゴル母子保健トレーニングプログラムのページをご覧ください。
