2010年05月24日
第3回モンゴル母子保健トレーニングプログラム:延べ参加者2200人超す

2008年から世界銀行 東京開発ラーニングセンター(TDLC)、北里大学看護学部、モンゴル看護協会(MNA)が共同で行っているモンゴル母子保健トレーニングの第3回目が2010年4月15日に行われました。今年から、新たなパートナー、国際保健機関(WHO)も加わり、543人のモンゴル人助産師、看護師がモンゴルの首都、ウランバートルおよび遠隔地域にある計6ヶ所に集まり、今回のトレーニングを受講しました。これまでにモンゴルの全看護師人数の約30%にあたる延べ2240人のモンゴル人助産師、看護師が本トレーニングを受けました。
日本時間のお昼過ぎから始まったトレーニングは、TDLCマネージャーの開会の辞で幕を開け、次に、モンゴルの保健省医療政策局からYa.Buyanjara氏をはじめ、現在のモンゴルの医療政策や、本トレーニングプログラムを持続する意義についてモンゴル看護協会会長S.Altanbagana氏などが紹介しました。
前回までのトレーニングの参加者を代表し、モンゴル母子センターで勤務する看護師のA.ムンフツェツェグ氏と第3母子病院で勤務する助産師のZ.ウヌール氏は、それぞれの職場の現状と2回のトレーニングを経て、職場で変わったことや、新たに始めた取り組みなど、そして、モンゴル国内の妊産婦と新生児医療・ケアにおける優先課題や、将来展望を写真や、図を交え、パワーポイントを用いて、発表しました。
ムンフツェツェグ氏の発表では、今までの遠隔教育を通してモンゴルで新たに作成した産婦への教育ビデオ、教材、マニュアル、リーフレットなどの写真を東京の会場に集まった北里大学看護キャリア開発・研究センター新生児集中ケア認定看護師教育課程専任教員の岡園代氏や、同大学看護学部の講師である吉野八重氏、そして、国際医療協力に高い関心を持つ、日本から実施するトレーニングを見学にきた者に報告しました。
ムンフツェツェグ氏は、病院での早産児ケアの一環として、バイタルサインの監視、体位交換、酸素吸入、感染予防・閉鎖型保育器での管理や、留置針の使用と管理、薬剤の適正投与、チューブ・点滴を使用した栄養投与や、産婦指導の強化、退院時に配付する赤ちゃんの予防接種記録が記入された健康手帳など新たに追加された病内プロセスを説明。
母子保健トレーニング実施前のモンゴルの医療事情や、トレーニング実施後の事情を良く知る北里大学看護学部の吉野氏によると、最初にモンゴルに行った時は、視察先の医療従事者からは、資金援助や、施設投入などの要求を受けたそうです。ところが、現状を改善する手段を学ぶ機会を提供する本トレーニングの実施を通じて、ある時点からモンゴル側に変化が見えるようになったそうです。
モンゴル側に見られた大きな変化とは吉野氏によると、看護師や助産師のプレゼンテーション能力が当初に比べ、著しく向上したことだそうです。それに伴い、海外ドナーや、モンゴル国内の医療政策機関に働きかけるには、どのような情報が必要で、それらの情報をどのように収集すれば良いか、情報を都市部・遠隔地域で共有するにはどうすればよいかなどの課題に対し、モンゴルの医療従事者の主体性が見えるようになったそうです。そして、今回のムンフツェツェグ氏の発表によると、ある看護師が中心となり、アメリカに本部を置くNGO団体「サマリア人の財布(Samaritan’s Purse)」に対し、母親学級用教室の設立プロポーザルを書き上げ、見事に援助を受けることになったそうです。各種機器完備された教室は、2010年1月にオープンし、現在は、同教室で、300人以上の妊婦が母親学級を受講中だそうです。
ムンフツェツェグ氏とウヌール氏による報告が終わると、北里大学の新生児集中ケア認定看護師教育課程専任教員である岡氏は、新生児の蘇生に関する講義を始めました。前の2回のトレーニングと大きく異なる点は、以前は、理論中心の講義であったのに対し、今回のトレーニングには、ビデオ会議技術を用いて、実技を教えるカリキュラムを盛り込んだことです。
岡氏は、講義前から会場で、蘇生人形や人工呼吸用のマスク、カテーテルなどを準備し、本番の実演の時、いつ、どのアングルで、会場内の複数のカメラに蘇生人形を向ければ、モンゴル側に一番良く見えるかなど、スタジオテクニシャンと事前打ち合わせをしていました。実技を教えるには、適さないといわれがちな遠隔学習手法ですが、事前準備の成果もあり、実演は、スムーズに進行しました。人工呼吸を岡氏が実施し、蘇生人形の胸が微妙に上下するところなどを、カメラが、ズームインし、モンゴル側は、画面を見てその動きを確認。このようにスタジオの複数のカメラを使い、岡氏の細かい手作業をカメラでおって、新生児の心肺蘇生の方法の実演は、行われました。
さらに、今回は、北里大学看護学部で行われた蘇生人形を使った実際の演習の様子をビデオに修め、それをトレーニングの教材として活用しました。それは、ニーズ調査にて、日本で実際に行われている実技練習を見たいという強い要望がモンゴルから挙がっていたためです。
岡氏の実演講義の次は、休みを挟んで、スイス、ジュネーブに本部を置くWHO、母性保健部(Making Pregnancy Safer: MPS)からDr. Matthews Mathai とDr. Maurice Bucagu によるパルトグラフ、子癇前症、子癇、に関する講義が行われました。
8時間という長時間の内容の詰まったトレーニングでしたが、画面に映っていたモンゴルの会場の受講生は、長時間姿勢も崩さず、席も外さずと、熱心さが伺え、「日本の大学生よりやる気がある」と日本の見学者から関心の声も聞こえました。モンゴルの各会場には、夜勤を終えて会場に直行した人もいれば、講義を終えてから職場に向かうという人もいたそうです。
病院で、通常業務も継続する必要がある中、いっせいにモンゴル国内の看護師・助産師がトレーニングを受けるため、参加できる看護師や、助産師は、限られています。トレーニングに出たくても、出られない人がいるため、トレーニング参加者は、参加できなかった人に、学習した内容を教えることになっています。よって、トレーニングに参加すること自体が、看護師や、助産師の間では、ステータスであり、参加者は、誇らしく思うのだそうです。
日本会場の見学者は、将来、助産師になり、途上国で国際医療協力に携わりたいという志を抱く学生で、日本では、自分の勉強する分野の中で、国際医療協力に重点を置く内容の教育機会が少ないと感じていると担任の講師も話していました。トレーニング中、数回設けられた質疑応答の時、積極的に、現地の状況を知ろうとモンゴルの人たちに質問し、その回答を真剣に聞いている姿が印象的でした。
毎年、ニーズ調査や、参加者のフィードバックを得て、規模拡大、内容充実と改善されているモンゴル母子保健トレーニングですが、参加者の声には、「モンゴル以外の海外の看護師も参加できるよう規模を拡大し、互いの経験に学びあえる研修にできると更に良い」や、「アジア諸国規模で実施する」などというモンゴル外の参加者とのピアラーニングに視野を向ける人も出てくるようになりました。
過去に類似トレーニングプログラムなどの実施や、事後調査をしたことがある吉野氏は、研修実施後、参加者の新しい知識を実践する早さや、トレーニング内容が周囲に伝達するスピードの早さに驚いたそうです。トレーニングを実施するからには、正しい知識が参加者に習得され、それがある一定期間後、保持されていることを確認し、正しい情報が周囲に伝達されているかどうかを実施側は、フォローアップすることが、大事と説明していました。 今後も、モンゴルから研修の要請や、期待が高まるなか、一回一回のトレーニングを単発のトレーニングではなく、サイクルと考え、長期的に企画し、研修を持続する予定です。
